東京高等裁判所 昭和56年(行ケ)265号 判決
一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)、二(本願発明の要旨)及び三(審決の理由の要点)の事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、原告主張の審決取消事由の存否について検討する。
1 取消事由(一)について
原告は、第一引用例に審決認定のとおりの写真装置が記載されていることは認めるが、第一引用例記載のものにおけるフイルム送り装置の可動部材の係合部分(かぎ状部分)は、本願発明におけるフイルム送り装置と異なり、フイルムユニツトの処理ローラに近接した箇所に係合する構成であり、右のような構成とするについては特段の理由が存したものであるにもかかわらず、審決は、本願発明と第一引用例記載のものとを対比するに当たり、右特段の理由を無視して係合位置についての右相違を看過し、その結果、本願発明の進歩性を否定したものであつて違法である旨主張する。
しかしながら、以下説示するとおり右主張は理由がないものというべきである。
(一) 成立に争いのない甲第三号証(昭和四六年特許出願公告第二七〇二八号公報)によれば、第一引用例記載の発明は、「自動現像型カメラの如き写真装置において堆積関係を有するように配置された複数の感光素子すなわちフイルムユニツトを内装する容器よりなるフイルム組立体すなわちパツクを使用し、前記フイルムユニツトが容器内において順次露出され、該フイルムユニツトが容器から引出された後次の露出が行われるようになつた写真装置の改良に関する。」(同公報第一欄第三四行ないし第二欄第三行)ものであり、「在来の装置においてはフイルムユニツトを手によつて容器から引出す必要があり、普通はフイルムユニツトに接着されかつ装置から突出した引出片をつまんでこれを引出すようになつている。」(同公報第二欄第一〇ないし第一四行)のに対し、第一引用例記載の発明の目的の一つは、「写真装置において駆動される処理ローラと、相次ぐフイルムユニツトを容器から前記処理ローラのはさみ口に自動的に送給する装置とを有する写真装置を供することである。」(同公報第二欄第一五ないし第一八行)が、フイルム送り装置の可動部材の係合部分をフイルムユニツトのどの位置に係合させるかという点については、第一引用例の特許請求の範囲には何ら記載されていないことが認められる。
もつとも、前掲甲第三号証によれば、第一引用例記載の図面には可動部材30(第一引用例の用語では「フイルム係合部分30」あるいは「フイルム係合装置30」)がフイルムユニツトの前端部に近い一縁に設けられた小孔(「開口34」)と係合する構成のものが示されていることが認められ(別紙図面(二)参照)、T字形部材14、駆動歯車25の一端に偏心的に装架されたピン22、ローラ24、26、可動部材30等の各部材の配置関係からすると、第一引用例記載のものにおいて、右図面に示されたものが好ましい構成のものであると推認される。しかしながら、前記のとおり、第一引用例は駆動される処理ローラと、処理ローラにフイルムユニツトを次々に自動的に送給する装置を設けた写真装置に関する技術を開示するものではあるものの、可動部材の係合部分とフイルムユニツトとの係合位置について特に限定し、右図面に示された以外の構成を排除しているものとは認め難いから、前記図面の記載をもつて、第一引用例記載のものにおける可動部材の係合部分とフイルムユニツトとの係合位置が原告主張のとおりのものであると認定しなければならないものではない。
(二) 原告は、第一引用例記載のものにおける可動部材の係合部分がフイルムユニツトの処理ローラに近接した箇所に係合し、その箇所を捉えてフイルムユニツトを引き出す構成とされるのは特段の理由が存したものであるとし、右理由として請求の原因四、1、(一)ないし(四)記載のとおり主張するが、次に説示するとおり採用することができない。
(1) 原告は、第一引用例記載のものにおける一対の処理ローラに加えられる強い係合力のため、フイルムユニツトの後から力を加えて処理ローラ間に咬みこませると、可撓性のフイルムユニツトが曲がるおそれがあり、処理用液体をフイルムユニツトの露光面に均一に、なるべく薄く配布するためにもフイルムユニツトが曲がることは絶対に避けねばならないのであつて、そのために、第一引用例記載のものはフイルムユニツトのなるべく処理ローラに近い個所に力を加えてフイルムユニツトが曲がらないようにしようとする考えに基づいているのである旨主張する(請求の原因四、1、(一))。
そこで、まず、フイルムユニツトの可撓性という点について検討すると、前掲甲第三号証によれば、第一引用例の発明の詳細な説明には、第一引用例記載のものに用いられるフイルムユニツトに関して、「このフイルムユニツトは特願昭四三―一五三三一、一五三三二に記載された型のものとなすことが望ましい。」(第二欄第三七行ないし第三欄第一行)と記載されていることが認められる。そして、成立に争いのない乙第一号証によれば、第一引用例に引用されている右昭和四三年特許願第一五三三一号に係る特許出願公告公報の発明の詳細な説明には、「包装、貯蔵、取扱い、露光および処理に関する限りでは最も有用な且つ利用価値のあるフイルムユニツトとは、(中略)或る程度の柔軟性を帯び、且つ有用にして魅力ある写真印画の製造を阻害することなく機械的方法により操作し、処理することのできる屈強な構造を有することを一特徴とするところのものである。」(第八欄第三ないし第一一行)と記載されていること、成立に争いのない乙第二号証によれば、同じく第一引用例に引用されている前記昭和四三年特許願第一五三三二号に係る特許出願公告公報の発明の詳細な説明には、「組立て、貯蔵、取扱、露光および処理に関する限り最も有用かつ利点の多いフイルムユニツトは(中略)丈夫で幾分可撓性があり、有用かつ魅力的な写真印画を失敗することなく作るように機械的手段で取扱いが出来る構造を特徴とするものである。」(第七欄第一三ないし第一九行)と記載されていることがそれぞれ認められる。
右認定事実によれば、第一引用例が同引用例記載のものに用いることが望ましいとしているフイルムユニツトは、可撓性を有するものではあるが、比較的丈夫なものであつて、その前端部以外の部分に力を加えて処理ローラ間に咬みこませた場合に曲がつてしまい、処理用液体をフイルムユニツトの露光面に均一に配布することに支障を来すような性能のものであるとは認め難い。
しかも、第一引用例記載のものに用いられるフイルムユニツトが可撓性のものであるからといつて、そのことの故に当然に可動部材の係合部分とフイルムユニツトとの係合位置が処理ローラに近接した箇所に限定されるべきであるとは認め難いのであつて、このことは、本願発明においても薄い可撓性のフイルムユニツトを用いていながら(本願発明におけるフイルムユニツトが薄い可撓性のものであることは、成立に争いのない甲第二号証の一((本願明細書))第一〇頁第一一、第一二行より明らかである。)、可動部材のかぎ状部分(係合部分)がフイルムユニツトの後尾端縁と係合するように形成されていることからも明らかである。
次に、一対の処理ローラをめぐる力関係の点について検討すると、前掲甲第三号証によれば、第一引用例の発明の詳細な説明には、前記第二欄第三七行ないし第三欄第一行の記載に続いて、「この型の各フイルムユニツトは感光素子44、該感光素子に対して面対面関係を有するように装着された透明な第二、すなわち受像素子46および処理用液体を含む押潰可能袋48を含むポジ写真プリントの形成に必要なすべての材料を有し、該押潰可能袋は感光素子および第二素子の一端に装着され、この押潰可能袋に圧力が加えられた時に、前記素子の間に包含液体を配布するようになつている。各フイルムユニツトは袋48を先きにして一対の加圧部材の間に前進せしめることによつて処理されるようになつている。」(第三欄第一ないし第一二行)と記載され、さらに、「一対の加圧部材すなわちローラ24、26(中略)は露出の済んだフイルムユニツトをそれらのはさみ口に受入れかつ袋48を押潰すに十分な圧力を加えると共に袋の中の処理用液体をシート44、46の間に均一に配分し、ポジ写真プリントを形成するようになつている。」(第五欄第三ないし第一〇行)と記載されていることが認められ、右各記載によれば、第一引用例記載のものにおいて、フイルムユニツト、フイルムユニツトに付属している処理用液体の封入された袋48と一対の処理ローラ24、26間の押圧力とは、所要の強度関係にあるように設計されているものと認めるのが相当であるが、フイルムユニツトが処理ローラに到達すれば、フイルムユニツトに曲がりを生じる程の押しこみ力を用いることなくフイルムユニツトを処理ローラ間に咬みこませるようにする程度のことは当業者において容易になし得る程度のことというべく、第一引用例記載のものにおいて、可動部材の係合部分がフイルムユニツトの処理ローラに近い箇所で係合する構成を採用しなければ、処理ローラ間の押圧力のためにフイルムユニツトが曲がるおそれがあるものとは認め難い。
以上のとおりであつて、フイルムユニツトの曲がり易さあるいは可撓性、処理ローラ間の押圧力を根拠として、第一引用例記載のものは、可動部材の係合部分がフイルムユニツトの処理ローラに近接した箇所に係合する構成のものに限定され、該構成が特段の理由に基づくものであるということはできず、原告の前記主張は理由がない。
(2) 原告は、第一引用例記載のものにおいて、可動部材の係合部分をフイルムユニツトの上面に向つて附勢しておく力を適切に常に一定に保つことは非常に困難であり、係合が浅いとフイルムユニツトの引き出しに失敗するし、係合が深すぎると二枚目のフイルムユニツトを一緒に引き出そうとする結果になるため、第一引用例記載のものでは、フイルムユニツトの前端部が処理用液体の封入された袋の厚みだけ互いに隔たつているので、右のような問題を幾分でも少なくしようと意図して、可動部材の係合部分がフイルムユニツトの前端部と係合するようにしているものである旨主張する(請求の原因四、1、(二))。
しかしながら、右のような問題は設計が拙劣であつた場合に生じるものと認められ、第一引用例記載のものにおけるフイルム送り装置に特有のものであるとは認め難いから、前記のような問題点を根拠として、第一引用例記載のものでは可動部材の係合部分がフイルムユニツトの前端部に係合する構成となつているとすることはできず、原告の右主張は理由がない。
(3) 原告は、第一引用例記載のものは、請求の原因四、1、(二)、(三)掲記の問題点ないし欠点が存するにもかかわらず、第一引用例には可動部材の係合部分をフイルムユニツトの後尾端縁に係合させることについて全く記載も示唆もされていないのであつて、このことは、第一引用例記載の発明は処理用液体をなるべく均一に、かつ、薄くフイルムユニツトの露光面に配布するという自己現像型フイルムユニツトの最重要課題の観点から、可動部材の係合部分をフイルムユニツトの前端部に係合せしめるべきであつて、処理ローラから最も離れた後尾端縁と係合させる構成を採用すべきではないものと考えていたことを示している旨主張する(請求の原因四、1、(三))。
前掲甲第三号証によれば、第一引用例には、可動部材の係合部分をフイルムユニツトの後尾端縁と係合させる構成が記載ないし示唆されていないことが認められる。
しかしながら、まず請求の原因四、1、(二)掲記の問題点は、前記のとおり設計が拙劣であつた場合に生じるもので、第一引用例記載のものにおけるフイルム送り装置に特有のものであるとは認め難いから、この点に関しては原告の前記主張はその前提を欠いており失当というべきである。
次に、フイルムユニツトの前端部に近い一縁に小孔を設けたからといつて、必ずしも外観が見苦しいとは認め難いし、前掲甲第三号証によれば、第一引用例の発明の詳細な説明には、フイルムユニツトの縁部に孔を設けることは必ずしも必要ではなく、「たとえば一連の波形を設けることができる。」(第三欄第二二、第二三行)と記載されていることが認められ、右記載によれば、第一引用例記載のものにおいて、可動部材が係合するフイルムユニツトの開口の形態はデザイン等も考慮して適宜設計し得る程度のことと認められる。
また、可動部材の係合部分を、復路ではフイルムユニツトに接触しないようにすることは、第一引用例記載のもののみに要求されることではなく、本願発明においても同様であり、可動部材の係合部分を持ち上げるといつてもその寸法は微小のものであることは技術的に自明であり、それによつてカメラ内のスペースはほとんど増大しないものと考えられる。
いずれにせよ、第一引用例には可動部材の係合部分をフイルムユニツトの後尾端縁と係合させることについて記載ないし示唆がなく、他方、第一引用例記載のものにおいて、フイルムユニツトに小孔を設けることとし、あるいは復路では可動部材の係合部分を持ち上げることとしているからといつて、第一引用例は、可動部材の係合部分をフイルムユニツトの前端部に係合せしめるべきであつて、処理ローラから最も離れた後尾端縁と係合させる構成を採用すべきではないものと考えていたことを示しているとは到底認め難く、原告の前記主張は理由がない。
(4) 原告は、第一引用例記載のものにおいて、可動部材の係合部分がフイルムユニツトの処理ローラに近接した箇所に係合する構成のものであることは、本件出願当時の技術水準によつても裏付けられる旨主張する(請求の原因四、1、(四))。
成立に争いのない甲第四号証(米国特許第三四六〇四五二号明細書、第二引用例)、同第七号証(米国特許第三五一一一五二号明細書)、同第八号証(米国特許第三五四五三五七号明細書)、同第一〇号証(米国特許第三三五〇九九〇号明細書)、同第一一号証(米国特許第三五〇五九四三号明細書)、同第一二号証(米国特許第三五三七三七〇号明細書)によれば、本件出願当時、写真装置内にある自己現像型フイルムユニツトをローラに送りこむための可動機構として手動操作によるものを用いる方式のものでは、フイルムユニツトのローラと反対側の端部を捉えてフイルムユニツトをローラに送りこむ態様のものが存在したが、可動部材としてかぎ状部材を用い、かぎ状部材を動力駆動によつて作動せしめて可撓性のフイルムユニツトをローラに送りこむ方式のものでは、かぎ状部材でフイルムユニツトのローラに近接した箇所を捉える機構のものが一般的に用いられていたことが認められる。しかしながら、前(一)項において説示したとおり、第一引用例記載の発明の特許請求の範囲には、可動部材の係合部分とフイルムユニツトとの係合位置については何ら限定的な記載はなされていないのであるから、右認定のような事実が存するからといつて、第一引用例記載のものにおける可動部材の係合部分はフイルムユニツトの処理ローラに近接した箇所に係合する構成のものに限定して理解しなければならないということはない。
また、前掲甲第一一号証によれば、米国特許第三五〇五九五四三号明細書には、フイルム送り装置の可動部材をフイルムカセツト外に設け、可撓性のフイルムユニツトのローラと反対側の端部を捉えてフイルムユニツトをローラに送りこむ構造の写真装置が示されていることが認められるから(別紙図面(四)参照)、右のような構成のものは本件出願当時全く存在しなかつた旨の原告の主張は理由がない。
よつて、原告の前記主張は理由がないものというべきである。
(三) 以上のとおりであつて、審決が、第一引用例記載のものにおける可動部材とフイルムユニツトとの関連につき、「可動部材30はフイルムユニツトの上面に向つて附勢された係合部分を備え、該部分が前記最上フイルムユニツトに設けられた開口と係合するように形成されている」とし、可動部材の係合部分とフイルムユニツトとの係合位置につき右以上にこれを特定する認定をなさなかつたことは正当であつて、第一引用例記載のものにおけるフイルム送り装置の可動部材の係合部分がフイルムカセツトの前端部に設けられた細溝を通してフイルムユニツトの前端部に近い一縁に設けられた小孔と係合するように構成されたものであることを前提とし、審決は本願発明と第一引用例記載のものとの間の可動部材の係合部分とフイルムユニツトとの係合位置の相違を看過したとする原告主張の取消事由(一)は理由がないものというべきである。
2 取消事由(二)について
原告は、審決は本願発明と第一引用例記載のものとの相違点(1)に対する判断をするに当たつて、第一引用例記載のものと第二引用例記載のものとの間には、第二引用例記載のものにおけるフイルム送り装置を第一引用例記載のものに転用し得るか否かを判断するについて看過することのできない重要な相違が存するにもかかわらずこれを看過、誤認し、その結果、第二引用例記載のフイルム送り装置を第一引用例記載のものに転用し、本願発明に想到することは容易であると誤つて認定、判断したものであつて違法である旨主張する。
しかしながら、以下説示するとおり右主張は理由がないものというべきである。
(一) 第一引用例に審決認定のとおりの構成の写真装置が記載されていることは当事者間に争いがない。したがつて、本願発明と第一引用例記載のものとは、審決が認定するとおり、(1)可動部材とフイルムユニツトとの関連において、本願発明は、かぎ状部分を備えた可動部材によつて最上フイルムユニツトの後尾端縁と係合するのに対して、第一引用例記載のものは、係合部分を備えた可動部材によつて最上フイルムユニツトに設けられた開口と係合する点、(2)可動部材とカセツトとの関連において、カセツトに設けられる細溝としてカセツトの前面壁に設けられた縦長の開口部が、本願発明では、カセツトの後尾端壁に形成された切りこみ開口まで延びている構成を備えている点において相違するが、その余の構成は一致するものということができる(相違点のうち、可動部材の係合部分とフイルムユニツトとの係合位置の相違に関する原告の主張が理由のないことは、前項において説示したとおりである。)。
そして、第二引用例に自己現像型カメラに使用されるフイルムカセツトから一枚のフイルムユニツトを引き出すために、フイルムカセツト内にフイルム引出口に対し移動可能な可動部材を有し、この可動部材はフイルムユニツトの後尾端縁と係合し得るようなかぎ状部分を形成している構成が記載されていることは当事者間に争いがなく、弁論の全趣旨によれば、フイルム送り装置をフイルムカセツト内に設けるよりもフイルムカセツト外に配置することの方がこの種の自己現像型カメラの従来の構成からみて技術常識にかなうものであることが認められる。
第二引用例に開示された右技術及び右認定事実を参考にすれば、第一引用例記載のものにおいて、可動部材の係合部分がフイルムユニツトの後尾端縁と係合するような構成とすることは当業者にとつて容易なことであると認められ、相違点(1)に対する審決の認定、判断は正当というべきである。また、フイルムカセツト外からフイルム送り装置を一枚のフイルムユニツトの後尾端縁と係合させるようにした場合、フイルムカセツトの後尾端壁にフイルム送り装置がフイルムユニツト一枚と係合する切りこみ開口を設けることは、当業者が設計上容易になし得る程度のことと認められるから、相違点(2)に対する審決の認定、判断も正当である。
(二) 原告は、審決が相違点(1)に対する判断をするに当たり、第一引用例記載のものと第二引用例記載のものとの請求の原因四、2、(一)、(1)ないし(4)の掲記の相違を看過、誤認した点に誤りがあるとするが、次に説示するとおり右主張は失当である。
(1) 前示審決の理由の要点に明らかなとおり、審決には、「米国特許第三四六〇四五二号明細書(以下「第二引用例」という。)には、自己現像型カメラに使用されるフイルムカセツトから露出された一枚のフイルムユニツト(後略)」と記載されているが、前掲甲第四号証によれば、第二引用例記載の写真装置は、本願発明や第一引用例記載のものとは異なつて、フイルムユニツトをフイルムカセツト内で露光させるものではなく、フイルムカセツト外に送り出して露光させる構成のものであり、その可動部材は露光前のフイルムユニツトを露光させるためにフイルムカセツト外に送り出すものであることが認められる。したがつて、審決が、「露光された」としたのは誤りであることは明らかである。しかしながら、審決は、フイルムユニツトの後尾端縁と係合し得るようなかぎ状部分(係合部分)を形成したフイルム送り装置に関する技術が本件出願当時公知であつたことを根拠づけることを主旨とし、その限度において第二引用例を挙示したものと解されるのであり、また、前記相違点(1)に対する判断をするに当たつては、可動部材によつて送り出されるフイルムユニツトが露光前のものか、あるいは露光後のものであるかは関係がないのである。
したがつて、第二引用例記載のものにおける可動部材が、露光されるフイルムユニツトを送り出すという点で、第一引用例記載のものにおける可動部材と相違し、審決がその点を誤認したとしても、右相違点の誤認により、審決の相違点(1)に対する判断に誤りを来すものとは認め難い。
(2) 第二引用例記載のものにおけるフイルム送り装置は、第一引用例記載のものとは違つてフイルムカセツト内に設けられているが、前記のとおりフイルム送り装置をフイルムカセツト内に設けるよりもフイルムカセツト外に配置することの方がこの種の自己現像型カメラの従来の構成から技術常識にかなうものであると認め得ることからすると、第一引用例記載のものと第二引用例記載のものとでは、フイルム送り装置がフイルムカセツトの内にあるか外にあるかという相違があり、第二引用例記載のものにおける可動部材はフイルムユニツトの使用が終るとフイルムカセツトと共に廃棄されるものであるとしても、第二引用例に開示されたフイルムユニツトの後尾端縁と係合し得るフイルム送り装置を第一引用例記載のものに適用することに特段の障碍は存しないものというべきである。
したがつて、第一引用例記載のものと第二引用例記載のものとにおけるフイルム送り装置の取付位置に相違があつても、審決が相違点(1)に対してなした前記判断に誤りはないものというべきである。
(3) 第一引用例記載のものにおける可動部材は動力駆動によつて作動させられるものであるのに対し、前掲甲第四号証によれば、第二引用例記載のものにおける可動部材は手動操作によつて動かされるものであることが認められる。しかしながら、相違点(1)は、前記のとおり、本願発明においては可動部材のかぎ状部分がフイルムユニツトの後尾端縁と係合するのに対し、第一引用例記載のものにおいては右係合位置が特定されていないというにすぎないのであるから、相違点(1)について判断するに当たつては、第二引用例に可動部材のかぎ状部分がフイルムユニツトの後尾端縁と係合する構成が開示されているか否かが検討されれば足り、可動部材が自動操作によるものか手動操作によるものであるかの相違は右判断に関係がないものというべきである。したがつて、審決が右相違につき考慮しなかつた点に誤りはない。
(4) 前掲甲第三号証によれば、第一引用例の発明の詳細な説明には、第一引用例記載のものにおけるフイルムユニツトに付属している処理用液体を含む押潰可能な袋48はフイルムユニツトの前端に位置するものとして説明されていること、一方前掲甲第四号証によれば、第二引用例記載のものにおける破壊可能な処理液容器126はフイルムユニツトの後端に位置するものであることがそれぞれ認められる。しかしながら、前(3)項において説示したと同様の理由により、前記相違点(1)に対する判断をするに当たつては、フイルムユニツトにおける処理液容器の位置に関する右相違は関係がないものというべく、審決が右相違につき考慮しなかつた点に誤りはない。
以上のとおりであるから、請求の原因四、2、(一)、(1)ないし(4)掲記の相違は看過すべからざる重要な差異であるとして、原告がその理由あるいは該差異から帰結される事項として縷々主張する請求の原因四、2、(二)はいずれも審決の判断の正当性を左右するものではないというべきである。
よつて、原告主張の取消事由(二)は理由がない。
3 取消事由(三)について
原告は、審決は本願発明の奏する請求の原因四、3、(一)ないし(六)掲記の顕著な作用効果を看過したものである旨主張するので、この点について検討する。
(一) 原告は、本願発明におけるフイルム送り装置はカメラの耐久年数に匹敵する全期間における使用頻度を通じて、フイルム送りを確実にする意味における信頼性を有するものである旨主張する。しかしながら、原告は、右作用効果を奏する根拠として、本願発明の構成要件中、特に特定の要件を備えた可動部材と特定の要件を備えた細溝との不可分の有機的結合によつてもたらされる旨主張するのみで、右作用効果が第一引用例記載の写真装置に第二引用例記載のフイルム送り装置を適用したにすぎないものと対比して特段のものであるとする実質的理由を述べておらず、また、本願明細書(前掲甲第二号証の一)の記載中にも右理由を見いだすことはできない。したがつて、右作用効果は本願発明に特有のものであるとは認め難い。
(二) 原告は、本願発明におけるフイルム送り装置は密実である旨主張するが、原告は、本願発明におけるフイルム送り装置の構成が第一引用例記載のものに第二引用例記載のフイルム送り装置を適用したものと対比して密実であるとする実質的理由を主張しておらず、前記本願明細書の記載中にも右理由を見いだすことができない。したがつて、右作用効果は本願発明に特有のものであるとは認め難い。
(三) 原告は、本願発明においては、可動部材のかぎ状部分がフイルムユニツトの後尾端縁と係合するようにしているから、係合失敗がなく、かつ、次段のフイルムユニツトと係合するおそれもないという作用効果を奏するものである旨主張する。しかしながら、単に右のような構成を採用したことによつて右作用効果が得られるとは認め難いし、仮に右作用効果が本願発明の構成により得られるとしても、右作用効果は第二引用例記載のフイルム送り装置によつても奏し得るものというべく、右作用効果をもつて本願発明に特有のものであるとは認められない。
(四) 原告は、本願発明においては、可動部材のかぎ状部分はフイルム面に向つて附勢されているので、フイルムユニツトの後端部を上から押し下げる格好となり、フイルムユニツトの先導端部は逆に上に押し上げられることとなつて、フイルム引出口の通過を確実にするとともに、次段のフイルムユニツトとの間に僅かな隙間をつくることとなり、これが更にフイルムの送り出しを円滑にするという作用効果を奏する旨主張する。
ところで、可動部材のかぎ状部分がフイルム面に向つて附勢される力、フイルムユニツトの弾力性、フイルムユニツトとフイルムカセツト及びそのフイルム引出口との位置関係、フイルムユニツトの後端部から先導端部までの寸法等が適切な関係にあることが右作用効果を奏するための必要条件であると考えられるが、右条件は本願発明の構成に採り入れられているものではないから、本願発明の構成により右作用効果が奏されるものとは必ずしも認め難く、仮に、右作用効果が本願発明の構成により得られるものであるならば、第一引用例記載のものに第二引用例記載のフイルム送り装置を適用したにすぎないものによつても奏し得るものというべく、右作用効果をもつて本願発明に特有のものであるということはできない。
(五) 原告は、本願発明に係る写真装置においては、可動部材がフイルムユニツトの感光層領域と係合するおそれが全くない旨主張するが、前掲甲第三、第四号証によれば、第一引用例記載のものも第二引用例記載のものも同様の作用効果を奏するものと認められ、右作用効果は本願発明に特有のものであるとは認められない。
(六) 原告は、本願発明におけるフイルムユニツトには小孔を設ける必要はなく、美観が損われない旨主張するが、第二引用例記載のフイルム送り装置も可動部材のかぎ状部分がフイルムユニツトの後尾端縁と係合し、フイルムユニツトに小孔を設ける必要がないものであり、この点は本願発明と同一であるから、右作用効果は本願発明に特有のものではない。
以上のとおりであるから、本願発明に顕著な作用効果があることを前提とする原告主張の取消事由(三)は理由がないものというべきである。
三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却することとする。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
可撓性フイルムを積み重ね状態で収納し、その最上のフイルムユニツトを露出するための露出開口を前面壁に設け、露出されたフイルムユニツトを引き出すための引出口を先導端壁に設けたフイルムカセツトを使用し、かつ一対の処理ローラを備えた自己現像型カメラの写真装置にして、該写真装置は前記カセツトの側壁に近接して設けられたフイルム送り装置を含み、該フイルム装置が前記フイルム引出口に対し移動可能な可動部材を有し、該可動部材が前記カセツトに設けられた細溝を通して前記最上のフイルムユニツトと係合可能で該可動部材が前記フイルム引出口に向つて動くとき最上のフイルムユニツトが前記引出口を通つて前記処理ローラの咬みこみに送りこまれるように構成したものにおいて、
前記カセツトの細溝はカセツトの前面壁に設けられた縦長の開口部を含み、該縦長開口部は前記フイルムユニツトの引出方向に延在すると共にカセツトの後尾端壁に形成された切りこみ開口にまで延在し、
前記可動部材はフイルムユニツトの上面に向つて附勢されたかぎ状部分を備え、該かぎ状部分が前記切りこみ開口を通して前記最上フイルムユニツトの後尾端縁とのみ係合するように形成されていることを特徴とする写真装置。